アメリカの相続における税務・手続きについて記載するブログ

アメリカ(米国)の株・不動産などの相続における税務・手続きについてわかりやすく記載するブログです

米国居住者が保有する日本の不動産を、米国居住者が相続した際の米国遺産税の取扱い

ケース・スタディ

米国居住者である父親が亡くなり、同じく米国市民である娘が相続人となったケースです。父親の遺産には日本にある不動産も含まれています。この状況では、米国で遺産税と日本で相続税がそれぞれかかる、いわゆる二重課税になる可能性があります。この場合、米国における二重課税の取り扱いはどのようになるのでしょうか?

検討ポイント

  • 父親は米国市民であり、そのため彼の全世界にある財産は米国の遺産税の対象となります。
  • 一方、相続人である娘は日本における限定納税義務者であり、日本国内の財産に対して日本の相続税が適用されます。
  • 米国では、二重課税を調整するために外国税額控除制度が設けられており、遺産税の計算時に日本で支払った相続税を控除限度額まで差し引くことが可能です。
  • 米国の贈与税に関しても、遺産税と同じく、外国税額控除制度が適用されます。

 

ケーススタディの回答例

父親が米国市民であるため、日本に所在する不動産に対しても米国の遺産税が課されることになります。

さらに、日本の限定納税義務者である娘は、日本の不動産に関して日本の相続税を納める義務があります。この結果、該当する日本の不動産に関して米国と日本の間でいわゆる二重課税が発生します。この二重課税を解消するためには、米国の国内法や日米租税条約に基づく外国税額控除制度が利用できます。

この制度により、日本で支払った相続税は、米国で納めるべき遺産税の計算時に、遺産税の総額から控除限度額まで控除することが可能です。

① 外国税額控除(Credit for foreign death taxes)の適用対象

米国における遺産税の外国税額控除は、亡くなった全ての米国市民や米国居住者に適用されます。これは、相続によって米国外の財産が移転した場合に発生します。その際、当該国外財産が位置する外国で納付された、遺産税に相当する税金(この場合は日本の相続税)が外国税額控除の対象となります。(根拠法:IRC2014(a))

② 控除限度額(Limitations on credit)の取扱い

国税額控除の適用額は、以下の①と②のいずれか低い金額になります。(根拠法:IRC2014(b))

  1. 1. 国外財産に対して、その国外財産が所在する外国で実際に納付した税額。
  2. 2. 全財産に対して計算された遺産税額に、(当該国外財産の額 ÷ 遺産総額)を乗じた金額。

控除限度額を計算する際には、相続財産が米国国内か米国国外かを判断する必要があります。そのため、財産の所在地に関する規定の確認が必要です。このケーススタディでの日本の不動産は、米国国外財産に該当します。

 

③ 適用要件

A)適用のための証明(Proof of credit)

Internal Revenue Service(内国歳入庁)の長官が定める条件に従い、以下の項目を証明できる場合に限り、外国税額控除を受けることが可能です(根拠法:IRC 2014(d))

a. 外国で実際に納付した税額

b. 上記aに関連する各支払いの税額および支払日

c. 課税対象財産の種類と評価額

d. 証明および計算に必要なその他の情報。

これらの要件を満たすことで、外国税額控除の適用を受けることができます。

 

B)適用期限(Period of attestation)

国税額控除は、外国の税金が実際に納付されている場合、原則として遺産税の申告期限後4年以内に申請を行うことで適用が認められます。この期間内に適切な申請を行うことが重要です。(根拠法:IRC2014 (e))

 

④ 日米租税条約との関係

国税額控除は米国国内法に規定されていると同時に、日米相続税条約にも明記されています。日米相続税条約の第5条(二重課税の排除)第1項では、被相続人、贈与者、被相続人の遺産の受益者、または贈与の受益者がその国の国籍を有するか、またはその国内に住所を有している場合、その国は自国の租税から他方の締約国が課す租税を控除することと規定しています。これは基本的に米国国内法の規定と同じです。

しかし、被相続人の財産が日米以外の第三国に所在し、日米双方で全世界財産課税が生じる場合(例えば、被相続人が米国市民で、相続人が日本居住者の場合)、米国国内法では第三国の財産に課される日本の相続税は外国税額控除の対象外となります。これは日本の財産に課された日本の相続税のみが対象となるため、二重課税が完全には調整されないことがあります。このようなケースでは、日米相続税条約が米国国内法を補完し、二重課税の調整をより完全に行う役割を果たします。

 

⑤ 米国贈与税の外国税額控除

米国では、贈与税にも遺産税と同様の外国税額控除制度が存在します。この制度により、外国で納付された税額を米国の贈与税から控除することが可能です。(IRC2501(a)(3))