アメリカの相続における税務・手続きについて記載するブログ

アメリカ(米国)の株・不動産などの相続における税務・手続きについてわかりやすく記載するブログです

アメリカにおける遺産税・贈与税の概要

Q:アメリカにおいて相続、または贈与が発生した場合に、どの様な税金が課されるのでしょうか?

 

押さえておくべきポイント

  1. 相続税贈与税: 誰かが亡くなったときにその人の財産を引き継ぐ(相続する)場合、その財産に税金がかかることがあります。これを相続税といいます。また、生きているうちに誰かにお金や財産をあげる(贈与する)場合、その贈与にも税金がかかることがあります。これを贈与税といいます。相続の場合は亡くなった人の財産から、贈与の場合は贈り物をした人が税金を払います。
  2. 世代を超える贈与や相続: 例えば、祖父母が孫に直接財産を渡すような場合、通常の贈与税相続税に加えて、さらに特別な税金がかかることがあります。これを世代飛越移転税といいます。
  3. 州による税金: アメリカでは、国全体で共通の税金のルールがある一方で、住んでいる州によってもう少し税金がかかることがあります。この州での税金には、相続税(遺産を引き継ぐときの税金)や贈与税(贈り物にかかる税金)が含まれます。

要するに、アメリカでお金や財産を誰かからもらったり、あげたりする場合、その状況に応じて税金がかかることがあります。そして、それは国だけでなく、住んでいる州によっても変わってくるので注意が必要です。

 

では、以下で解説していきましょう。

 

概要

アメリカでは、人から人へお金や財産を渡すときにかかる税金には、大きく分けて3つの種類があります。これらは遺産税、贈与税、そして世代を超えて財産を渡すときにかかる特別な税金です。アメリカのシステムは、日本とは違って、通常、お金や財産をあげる人が税金を払う必要があります。しかし、その人がアメリカの市民や住民か(米国市民や米国居住者か)、それとも住んでいない人か(米国非居住者か)によって、税金の計算方法が変わってきます。

アメリカの遺産税や贈与税の特徴の一つは、一生のうちに使える税金の控除額があることです。これは、遺産税と贈与税の両方に適用され、一定の額までは税金がかからないようになっています。

さらに、アメリカでは住んでいる州によって、遺産税や贈与税が別途かかることもあります。つまり、国全体でのルールに加えて、各州による追加の税金がある場合があるのです。

簡単に言えば、アメリカでお金や財産を人からもらったり、あげたりする際には、そのプロセスでいくつかの税金が関わってきます。そして、それらの税金は、誰がどのような立場かによって、どのように計算されるかが変わってくるので、注意が必要です。

 

(1)アメリカの遺産税(Estate tax)

アメリカには、「遺産税」という税金があります。これは、人が亡くなったときに、その人の持っていたお金や財産全体にかかる税金です。この税金は、まだ誰にも分けられていない財産に対して計算されます。そのため、税金を払う責任があるのは亡くなった人、つまり被相続人です。

遺産税とは別に、「相続税」というものもありますが、これは財産が実際に人から人へと渡った後にかかる税金です。遺産税は亡くなった人の財産全体に、相続税はその財産を受け取る人が個別に払う税金です。

アメリカの市民や住んでいる人は、世界中の財産に対して遺産税がかかります。しかし、アメリカに住んでいない人は、アメリカ国内にある財産に対してだけこの税金が適用されます。

遺産税の税率は段階的に高くなり(2012年の例では18%から35%)、亡くなった日から9ヶ月以内に、この税金の申告と支払いを完了させなければなりません。

つまり、アメリカで誰かが亡くなると、その人の財産には遺産税がかかることが多く、どれだけの税金を払う必要があるかは、亡くなった人がどの国の市民か、どこに住んでいたか、そしてその財産がどれだけあるかによって決まります。

 

(2)アメリカの贈与税(Gift tax)

アメリカでは、誰かにお金や財産をプレゼントするときにかかる税金があります。これを「贈与税」といいます。この税金は、プレゼントをする人、つまり贈与者が払う必要があります。

アメリカの市民や住んでいる人が贈り物をする場合、世界中のどこにある財産でも税金の対象になります。これは、遺産税のときと同じルールです。しかし、アメリカに住んでいない人が贈り物をする場合は、アメリカ国内にある財産だけが税金の対象となりますが、その中でも無形資産(特許権や商標権などの見えない財産)は除かれます。

贈与税の計算方法は、年ごとに行われ、税率はどれだけ贈ったかによって段階的に高くなります。これも遺産税と同じように、金額が多ければ多いほど、税率も高くなる仕組みです。贈与した年の翌年の4月15日までに、この税金の申告と支払いをする必要があります。

簡単に言えば、アメリカで誰かにプレゼントをするときは、そのプレゼントの価値に応じて税金を払うことがあります。そして、その税金はプレゼントをした人が負担します。どの国の市民か、どこに住んでいるかによって、税金の対象となる財産が変わってくるので注意が必要です。

 

(3)アメリカの世代飛越移転税(Generation skipping transfer tax : GST)

アメリカで、もし祖父母が孫に直接お金や財産を渡すような場合、通常の遺産税や贈与税に加えて、特別な税金がかかることがあります。これを「世代飛越移転税」と呼びます。この税金は、財産を渡す人(亡くなった人や贈り物をした人)に課せられます。

世代飛越移転税の税率は、遺産税の最高税率と同じ35%です。この税金の申告と支払いの期限は、遺産税や贈与税と基本的に同じです。

つまり、祖父母から孫へと直接財産を渡す場合、その財産には通常の税金に加えて、さらに35%の税金がかかる可能性があるということです。この特別な税金は、家族の世代を超えて財産が移動するときにだけ適用されるため、財産を移転する際には注意が必要です。

 

(4)アメリカの統一移転税額控除(Unified credits)

アメリカの税制には、遺産税と贈与税の両方に適用される特別なルールがあります。これを「統一移転税額控除制度」と呼びます。この制度は、人が生きている間に贈り物として他人に渡した財産と、亡くなった後に遺産として残した財産の合計額から、一定の金額を控除できるというものです。2012年の場合、この控除額は1,772,800ドル(アメリカの市民や住民の場合)でした。

この控除制度のおかげで、贈与と相続を合わせた総額がこの控除額を超えなければ、実際に税金を払う必要がないことになります。つまり、この控除額の範囲内であれば、贈与した財産に対しても、相続した財産に対しても、実質的な税負担は発生しません。

さらに、贈与税は、ある意味で遺産税の前払いのようなものと考えられます。つまり、生前に贈与税を払った場合でも、その人が亡くなった時に行われる遺産税の計算で、すでに支払った贈与税が考慮され、精算されるのです。

また、世代を超えて財産を移転する場合にかかる世代飛越移転税についても、遺産税や贈与税で使える統一移転税額控除とは別に、特別な控除が適用される場合があります。これにより、世代飛越移転税に対する負担も軽減される可能性があります。

簡単に言うと、アメリカでは、贈与や相続によって財産を移転する際に一定額までの税負担が免除される制度があり、これにより多くの人が実際に税金を払うことなく財産を移転できるようになっています。また、これらの税金は生前と死後の財産の移転を総合的に考慮して計算され、公平な税負担を目指しています。

 

(5)アメリカの州税(State Tax)

アメリカでは、亡くなった人の財産や生きているうちに他人に渡した財産にかかる税金は、国全体で適用される連邦税のほかに、住んでいる州によっても異なる場合があります。これらの州の税金には、遺産税や相続税があり、州によって取り扱いが全く異なります。

例えば、ニューヨーク州では遺産税が課されます。これは、亡くなった人の財産全体に対して州が税金を徴収する場合です。一方、ペンシルバニア州では相続税が課され、こちらは遺産を受け取る人が支払う税金です。そして、カリフォルニア州のように、遺産税も相続税も課されない州もあります。

つまり、アメリカでは連邦レベルでの税金に加えて、住んでいる州によっても遺産や贈与に関する税金のルールが大きく変わってくるのです。そのため、遺産を残したり受け取ったりする場合、または贈り物をする場合には、連邦税だけでなく、自分が住んでいる州の税法もよく理解しておく必要があります。

米国居住者が保有する日本の不動産を、米国居住者が相続した際の米国遺産税の取扱い

ケース・スタディ

米国居住者である父親が亡くなり、同じく米国市民である娘が相続人となったケースです。父親の遺産には日本にある不動産も含まれています。この状況では、米国で遺産税と日本で相続税がそれぞれかかる、いわゆる二重課税になる可能性があります。この場合、米国における二重課税の取り扱いはどのようになるのでしょうか?

検討ポイント

  • 父親は米国市民であり、そのため彼の全世界にある財産は米国の遺産税の対象となります。
  • 一方、相続人である娘は日本における限定納税義務者であり、日本国内の財産に対して日本の相続税が適用されます。
  • 米国では、二重課税を調整するために外国税額控除制度が設けられており、遺産税の計算時に日本で支払った相続税を控除限度額まで差し引くことが可能です。
  • 米国の贈与税に関しても、遺産税と同じく、外国税額控除制度が適用されます。

 

ケーススタディの回答例

父親が米国市民であるため、日本に所在する不動産に対しても米国の遺産税が課されることになります。

さらに、日本の限定納税義務者である娘は、日本の不動産に関して日本の相続税を納める義務があります。この結果、該当する日本の不動産に関して米国と日本の間でいわゆる二重課税が発生します。この二重課税を解消するためには、米国の国内法や日米租税条約に基づく外国税額控除制度が利用できます。

この制度により、日本で支払った相続税は、米国で納めるべき遺産税の計算時に、遺産税の総額から控除限度額まで控除することが可能です。

① 外国税額控除(Credit for foreign death taxes)の適用対象

米国における遺産税の外国税額控除は、亡くなった全ての米国市民や米国居住者に適用されます。これは、相続によって米国外の財産が移転した場合に発生します。その際、当該国外財産が位置する外国で納付された、遺産税に相当する税金(この場合は日本の相続税)が外国税額控除の対象となります。(根拠法:IRC2014(a))

② 控除限度額(Limitations on credit)の取扱い

国税額控除の適用額は、以下の①と②のいずれか低い金額になります。(根拠法:IRC2014(b))

  1. 1. 国外財産に対して、その国外財産が所在する外国で実際に納付した税額。
  2. 2. 全財産に対して計算された遺産税額に、(当該国外財産の額 ÷ 遺産総額)を乗じた金額。

控除限度額を計算する際には、相続財産が米国国内か米国国外かを判断する必要があります。そのため、財産の所在地に関する規定の確認が必要です。このケーススタディでの日本の不動産は、米国国外財産に該当します。

 

③ 適用要件

A)適用のための証明(Proof of credit)

Internal Revenue Service(内国歳入庁)の長官が定める条件に従い、以下の項目を証明できる場合に限り、外国税額控除を受けることが可能です(根拠法:IRC 2014(d))

a. 外国で実際に納付した税額

b. 上記aに関連する各支払いの税額および支払日

c. 課税対象財産の種類と評価額

d. 証明および計算に必要なその他の情報。

これらの要件を満たすことで、外国税額控除の適用を受けることができます。

 

B)適用期限(Period of attestation)

国税額控除は、外国の税金が実際に納付されている場合、原則として遺産税の申告期限後4年以内に申請を行うことで適用が認められます。この期間内に適切な申請を行うことが重要です。(根拠法:IRC2014 (e))

 

④ 日米租税条約との関係

国税額控除は米国国内法に規定されていると同時に、日米相続税条約にも明記されています。日米相続税条約の第5条(二重課税の排除)第1項では、被相続人、贈与者、被相続人の遺産の受益者、または贈与の受益者がその国の国籍を有するか、またはその国内に住所を有している場合、その国は自国の租税から他方の締約国が課す租税を控除することと規定しています。これは基本的に米国国内法の規定と同じです。

しかし、被相続人の財産が日米以外の第三国に所在し、日米双方で全世界財産課税が生じる場合(例えば、被相続人が米国市民で、相続人が日本居住者の場合)、米国国内法では第三国の財産に課される日本の相続税は外国税額控除の対象外となります。これは日本の財産に課された日本の相続税のみが対象となるため、二重課税が完全には調整されないことがあります。このようなケースでは、日米相続税条約が米国国内法を補完し、二重課税の調整をより完全に行う役割を果たします。

 

⑤ 米国贈与税の外国税額控除

米国では、贈与税にも遺産税と同様の外国税額控除制度が存在します。この制度により、外国で納付された税額を米国の贈与税から控除することが可能です。(IRC2501(a)(3))